―またいつか会えるよ―
  私は今でもこの言葉を忘れない。



パパからの贈り物 前編

〜少年と私〜




 あれは私がまだ幼かった頃の話。大好きだった父が突然交通事故で亡くなってしまった。御葬式の時に遺影の中の父は優しく微笑んでいた。私が大好きだった父の笑顔。まだ、幼かった私には、父がもういないという事実を受け止めることができなくて、母に縋りついて喚いた。
「ねえ! どうしてパパいなくなっちゃったの! パパはどこにいったの!」
私の言葉に母は悲しそうに微笑んで、泣きじゃくる私をそっと抱き締めながら囁いた。
「パパはね、天国にいったの。天国からミーちゃんのことを、ずっと見守っていてくれるのよ。」
母の声は震えていた。
「どうしてミーちゃんをおいていっちゃったの! ひどいよ! パパはもうかえってこないの!」
幼い私には泣きじゃくることしかできなかった。
 それからの私は、自分の部屋に閉じ篭もって、毎日のように泣いていた。ただ悲しくて悲しくて、母が心配するとわかっていても、涙は止まらなかった。
 ある日、泣き疲れた私はいつの間にか眠っていた。すやすやと眠気に誘われるがままに。 父が亡くなったという現実が夢であるように願いながら。
―どうか目が覚めたら、パパがいて、「おはよう」とにっこり笑ってくれますように。―



「おーい。おーい。ねえ、起きて。」
遠くのほうで声がきこえた。誰かが私の両肩をユサユサと揺らす。でも私は眠くて目を開けられずにいる。
―まだねかせてよ。―
心の中で呟いた。
「ねえ、ちょっと、おい! 起きろ! 死んじゃだめだ!」
声の主は、なぜか切羽詰っていて、大袈裟なことをいっていた。
「ちょっと目を開けろよ!」
声の主があまりにも大きく肩を揺さぶるので、私は仕方なく目を開けることにした。
「よかった。」
目の前には安心して微笑む少年の姿があった。何処かで見たことのあるような優しい笑顔。
少年は私から手を離した。
「声をかけても、なかなか目を覚まさないから心配したよ。でも良かった。ちゃんと生きてた。」
少年は言った。私は不思議に思い少年を見つめながら尋ねた。
「あなたはだれ?」
私の問いに、少年は優しく微笑んだ。
「ねえ、それより周りを見て。」
と少年は言った。
「え?」
私の質問には答えてくれなかったけど、私は少年が言ったとおりに周りを見渡した。
「うわあ、綺麗!」
私は思わず叫んだ。なんとそこは、あたり一面の花畑だった。色とりどりの花が、風にそよいで、見上げれば、青い空に白い雲。真ん中には小道。何処からか小川のせせらぎが聴こえる。そこは、幼かった私が今までに見たことのない、綺麗な場所だった。少年は立ち上がり、私に手を差し伸べた。
「ねえ、いっしょに遊ぼう?」
私は少年の言葉が嬉しくて、勢いよく立ち上がり、少年の手を握った。
「うん。」
そして二人でにっこり笑いあった。
この少年は何処か懐かしい感じがした。

 それから楽しい時間が流れた。私は少年に花冠の作り方を教えてあげた。少年は不器用な手つきで、何とか頑張っていた。だけど、繋げようとしても、するするとほどけてすぐにバラバラになってしまう。
 私はそんな少年がおかしくて笑った。すると少年は拗ねて、そっぽを向いてしまった。
「はい、これプレゼント。」
私はそういうと少年の首に、花で作った首飾りを掛けてあげた。少年は一瞬驚いたように私を見たが、
「ありがとう。」
と照れながらいってくれた。
 私たちは時間を忘れたかのように、いろんなことをして遊んだ。花の葉っぱで舟を作って川へ流して競争したり、花畑の上に寝転がって、空を見上げながらおしゃべりしたり。私は少年といると居心地よくて安心した。

「そうだ! ミーちゃんに見せたいものがあったんだ!」
遊んでいる最中に、何かを思い出した少年が突然叫んだ。
「どうしたの。」
私はびっくりして尋ねた。
少年は、
「驚かせてしまってごめんね。あのね、案内したい場所があるからいこう。」
と少し不安そうに言った。
「うん! いきたい!」
私が元気よくいうと少年は嬉しそうだった。
「ありがとう。じゃあ、いこうか。」
少年は私に手を差し出した。差し出された手を私は握った。繋いだ手から温もりが伝わった。

 少年が案内した居場所は、この小道を登ったところにあるそうだ。私たちはそこまで歌を唄いながら歩いた。しばらく歩いていると少年の唄が止み、歩みも止まった。
「みて。」
少年がある方向を指差した。私は少年が指差す方を見た。

 ひらりひらり舞う花弁。花弁が私の頬を掠める。そこには、白くて淡い色をした花の木が風にそよぎ、空高くそびえたっていた。幼い私は言葉も忘れ、ただその花の木にみとれていた。
「ハナミズキ。」
ふと少年が呟いた。私は少年の方をみた。少年はじっと『ハナミズキ』と呼ばれる花をみたままいった。
「この花の名前はハナミズキ。」
そんな少年の姿は私の目には儚く映った。
 そして今度はゆっくりと私の方を向いていった。
「花言葉は、いつもあなたを想っています。それとおかえしだよ。」
少年の声色は哀しいくらいに優しかった。私は何もいえずにただ黙っていた。





ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
後編に続きます。