パパからの贈り物 後編

〜たいせつなもの〜




「ミーちゃんは、今、幸せ?」
少年は言った。
「え?」
私には少年の言っていることが理解できなかった。何も言えないでいる私に、少年は「大丈夫だよ」と微笑んだ。
「僕は幸せだったよ。ミーちゃんとママがいてくれて幸せだった。だから、ありがとう。」
そう言った後、少年の体がいきなり光りだした。私は眩しくてとっさに両手で眼を覆った。
 やがて光がやんだ。私はそっと目から手を離した。そこにいたのは紛れもなく大好きな父の姿だった。私は信じられなかった。だけど、父の姿を見て眼からはとめどなく涙が溢れ出した。
「パパ!」
私はたまらなくなり思わず父に抱きついた。
「パパ! パパ! パパ!」
私は泣き叫びながら何度も父を呼んだ。父の腰にしがみつき泣きじゃくった。
「パパ、もうどこにもいかないで! ミーちゃんのそばにいてよ! どっかいっちゃいやだよ!」
父はそんな私の頭を優しく撫でてくれた。
「ミーちゃん、顔上げて。パパをみて。」
私は父を見上げた。涙で視界はぼやけて、しゃくり上げながら父を見た。父は目線を私の高さに合わせて、そっと肩に手を置いた。
「ミーちゃん、さっきも言ったけど、パパはミーちゃんとママといれて幸せだったよ。
ミーちゃんはパパがいなくて淋しい? だけどね、パパのせいでミーちゃんが悲しい思いをするのは嫌だよ。」
父はとても悲しそうな顔をしていた。
「それにね、ミーちゃんは一人じゃないよ。ママもいるし、ミーちゃんのことを大切にしてくれる人はたくさんいるよ。だからね、その人たちにあまり心配かけたらダメだよ。」
父の声は穏やかで優しかった。私は時々、手で涙を拭いながら父の言葉をきいていた。幼いながらも父の言葉をしっかりと受け止めようとしていた。
「ミーちゃんとパパはお別れするけど、パパはお空からいつもミーちゃんのことを見守っているよ。」
そう言うと父は優しく微笑んだ。
「ミーちゃんは大丈夫だよ。きっと大丈夫。」
父は私を抱き締めてくれた。そして、抱き締めていた腕をほどき、私の頭の上にそっと手を置いて、「パパはここにいるよ。」と言った。愛おしそうに私の頭を撫でてくれながら。
「ミーちゃんが、パパのことを思い出す度にパパはミーちゃんの頭の中にいるよ。だから、淋しいことなんてないんだよ。」
私はゆっくりと頷いた。

 パパとの別れが近づいてきていることを幼い私は悟っていた。
「うん。ミーちゃん、もう、なかない。」
そう言うとパパは少し淋しそうに笑った。
「ミーちゃん、口開けて。」
私は言われた通りに口を開けた。父は何かを私の口の中に入れた。それは、ハチミツ味の飴玉だった。
「おいしい。」
ハチミツ味の飴玉を舐めているうちにだんだん眠くなってきた。
「また、いつか会えるよ。」
視界が暗くなってきたときに、パパの声がきこえたような気がした。

 目覚めたら、そこは私の部屋だった。でも、もう大丈夫。私はドアを開け、母のところに向かった。母は朝食の用意をしていた。「ママ!」私は母を呼んだ。母は振り返り、心配そうな顔で私をみた。そして私の元へ行きかかんだ。
「なあに?」
私はにっこり笑った。
「ミーちゃんは、もうだいじょうぶ。いままでしんぱいかけてごめんね。だって、パパがいってたもん。みーちゃんがパパのことをおもいだすたびにミーちゃんのそばにいるって。またあえるよっていってくれたよ。」
私の言葉をきいて、母は驚いたようだったけど、黙って私を抱き締めてくれた。
「うん。きっとそうよ。」
母の声は涙声だったけど、嬉しそうだった。

 大人になった私は時々、あの日のことを思い出す。父のことを思い出す度に今も父がそこにいるような気がする。
「うん、きっとまた会えるよね。パパ。」
あの日の思い出は、パパがくれた大切な宝物。


おわり